「子ども虐待かもしれない」と思ったら ――
子ども虐待について連絡したい人のためのガイド

2023年9月掲載

子どもが虐待されているのではないか?ということを知った時、あなたはどうしますか?
このページでは、「日本国内にいる子どもが虐待されているかもしれない」という場合に、それを発見した人が何をするべきか、何ができるかを解説します。

(この記事は、日本国内にいる外国にルーツがある子どもや、日本語が得意でない子どもが虐待されているとき、周囲の人に日本の児童虐待対策が適切に周知・理解され、必要であれば子どもの保護につながるように、掲載しているものです。日本語が得意でない人のために、別のページにやさしい日本語にほんごばんと、英語版(English)の記事を掲載しています。)

すべての子どもが守られる

日本の児童福祉法や児童虐待防止法では、18歳までの子どもを守るにあたって、子どもの国籍や出自についての要件は一切設けられていません。
日本国内にいて日本法の適用を受けている限り、すべての子どもが保護と福祉の対象になります。

以下のような子どもも、すべて対象に含まれます。

  • どの国にも国籍が無い子どもや、国籍の有無がはっきりしない子ども
  • 在留資格がない子どもや、在留資格の有無がはっきりしない子ども

虐待の定義

子どもの虐待(ぎゃくたい)とは、「親(保護者)が、子どもを守る責任をとらずに、子どもの身体や心を傷つけること」です。「児童虐待」ともいいます。

子どもの親ではないけれど、子どもと一緒に住んでいる人が、子どもに虐待することもあります。

児童虐待の例 [1]
身体的虐待殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など。
しつけを目的とする体罰も含みます。
性的虐待子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
ネグレクト家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
心理的虐待言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など

子どもが虐待されているケースの中には、親も配偶者・パートナーによって虐待されたり、支配されたりしているケースがあります。親が暴力や暴言を受けている場面を子どもが見ることは「面前DV」と言って、これも心理的虐待です。

(もしもあなたが子どもの親で、配偶者・パートナーから脅迫や暴力を受けたり、精神的・経済的に支配されたりしている場合、あなた自身が外に助けを求めることで、子どもも保護されることにつながります。)

どこに連絡すればいい?

虐待されたていると思われる子どもを発見した場合、その地域を管轄する「児童相談所」や市区町村役場(「福祉事務所」)に連絡(通告)をすることが、法律で義務付けられています(児童虐待防止法 第6条)。発見した人の国籍や年齢は問いません。

①児童相談所

児童相談所は、子どもの保護や、子育ての相談などを行っている機関です。

電話番号「189番」は、政府が開設している「児童相談所全国共通ダイヤル」です。
市民が児童虐待に関する情報を提供するための専用ダイヤルです。

児童相談所全国共通ダイヤル

  • 電話をすると、オペレーターが24時間対応して、あなたの地域を管轄する児童相談所に電話を取り次いでくれます。 日本語にしか対応していません。(2023年3月時点。NPO法人ライツオン・チルドレンが厚生労働省に問い合わせて確認しました。)
  • 通話料はかかりません。
  • 匿名で電話をすることができます。電話した人の個人情報や電話で話した内容については、秘密が守られます。
  • 連絡した内容に間違いがあっても、責任を問われることはありません。あなた自身が確信が持てなくても、気になることがあれば、連絡して大丈夫です。

児童相談所が日本語以外の言語にどれくらい対応しているかは、地域によって差があります。例えば東京都の児童相談所では、言葉や文化の違いを超えて対応するために、プロジェクトチームやマニュアル(手引)が整備されています[2a-b]
他にも、職員が自動翻訳機を使って聞き取りを行っているケースがあるなど、様々な親子の状況に合わせて試行錯誤がなされています。

②市区町村の役所

窓口に行く、電話をする、などの方法で、子どもの福祉を担当している部署に連絡をとってください。
その地域の住民構成に合わせて、日本語以外での対応を用意している場合があります。

子どもを親から引き離すなどの強い措置は、市区町村にはできず、児童相談所が行う必要があります。

③警察

警察の「110番」でも、子ども虐待の対応をしてくれます。
地元の警察署や交番は、その地域の住民構成に合わせて、日本語以外での対応を用意している場合があります。

④法務局の「外国人のための人権相談」

政府(法務省)が外国人向けに置いている相談窓口で、いくつかの言語に対応しています。電話だけでなく、テキストでの相談も可能です。
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken21.html

外国人を理由とした差別などが主な対象ですが、子ども虐待のケースであっても、相談することができます。子ども虐待に関する相談は、法務局から児童相談所へと連携することになっています(※2023年3月時点。NPO法人ライツオン・チルドレンが法務省に直接確認しました)。

⑤法テラス

法テラス(日本司法支援センター)は、市民の法律や権利に関する相談を受け付けている機関です。
外国人向けに多言語での電話相談対応を行っています。
https://www.houterasu.or.jp/multilingual/index.html

メール相談も受け付けていますが、こちらは日本語のみの対応です。

連絡したら、子どもはどうなる?

①児童相談所の初期対応

「通告」を受けた場合、児童相談所の職員が現場に向かい、子どもの安全を直接確認することが法律で義務づけられています(原則48時間以内)。

児童相談所が電話などで受けとった連絡は、「相談」と、より緊急性の高い「通告」の2種類に分けられます。

虐待が深刻なケースの場合は、児童相談所がその場で子どもを「一時保護」して家族から引き離します。

(日本では、子ども虐待が確認された場合であっても、親が必ず逮捕・訴追されるとは限りません。子どもに対する保護・福祉と、親に対する司法手続きは、別の機関が判断を下します。)

②児相相談所による保護や指導

さらに、一時的な保護では不十分な場合は、児童養護施設乳児院里親などに預けることを検討します。

施設・里親に預けられている間も、子どもと親の面会が基本的には認められます。ただ、虐待が激しいなどの場合には、親子の接触を制限する命令が出ることもあります。

その後、子どもと一緒に暮らす準備ができたと判断されれば、児童相談所の判断によって、子どもが施設・里親のもとから親のもとへと帰されます。

一方で、児童相談所の仕事は親子を分離することだけではありません。
虐待の程度や頻度によっては、児童相談所は「親子分離の必要がない」と判断することもあります。
その場合は、子どもと親を分離せず、児童相談所は親子に対して家庭訪問などの形で関わります。
親の悩みや負担感に寄り添い、子育てをサポートします。親子に特別な支援ニーズがある場合は、それに合った福祉サービスを一緒に探すこともできます。

③在留資格について

子どもが在留資格を取得していない、もしくは途中で在留資格を失ってしまう、といった場合があります。このような場合、在留を特別に認めるかどうか、出入国在留管理庁が判断することになります。

おわりに

断片的なことしかわからなかったり、虐待かどうか確信が持てなかったりして、通告をするのにためらいもあるかと思います。しかし、情報を専門家に預ければ、専門家は他の情報も参考にしながら、虐待であったかどうか判断します。

あなたの通告が子どもの命を救う事になるかもしれません。そしてそれは子どもの親御さんを助けることにも繋がります。

出典

[1]こども家庭庁(2023). 「児童虐待防止対策」. https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/, (参照2023年8月22日).
[2a]尾崎慶太(2013). 「児童の権利に関する条約からみた外国籍児童の要養護問題と児童相談体制の課題」『関西国際大学研究紀要』巻14, pp.7-17. http://id.nii.ac.jp/1084/00000363/, (参照2023年8月22日).
[2b]東京都児童相談所(2021). 「東京都児童相談所 事業概要 2021年版」 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/jicen/others/insatsu.files/jigyogaiyo2021.pdf, (参照2023年8月22日).